イベントレポート2018/3/30

CTCとLhasa、48th Lhasa International Collaborative Group Meeting(ICGM)を東京で開催

2017年11月2日(木)、東京都千代田区のフクラシア東京ステーションで、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)と英国Lhasa Limited(以下、Lhasa社)は、48th Lhasa International Collaborative Group Meeting(以下、ICGM)を開催しました。ICGMは、日米欧3極で毎年1回、Lhasa社製品のユーザー様向け(=Lhasa member)に情報共有・議論する場として開催しています。2002年、国内初である第6回ICGM以降、定期的に開催しており、今回は48回目の開催です。

ICGMは、Lhasa社を中心とした、in silicoシステムを活用した毒性代謝予測に関する知見を国際的に共有することを目的としたコンソーシアム活動の一環でもあり、ここで議論された内容は今後の製品開発に生かされます。今回は、ICH M7ガイドライン対応におけるin silicoシステムの適応に加え、知識ベース毒性予測システム「Derek Nexus」による皮膚感作予測のアップデートや毒性試験データベース「Vitic Nexus」のデータシェアリングプロジェクト紹介など、多岐にわたるトピックスについて議論が繰り広げられました。

CTC Introduction

講演者
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
ライフサイエンス営業第1部 営業第3課 北吉 菜穂
CTCでLhasa製品の営業担当である北吉より、CTCの会社概要について紹介しました。

2017年4月1日付で、CTCは旧CTCライフサイエンス(以下、旧CTCLS)を吸収合併し、現在はライフサイエンス事業部として活動しています。当事業部は、Lhasa社製品の主管部署として、合併後も変わらず、ライフサイエンス分野の毒性・代謝分野向けに、Lhasa社製品のライセンス販売、保守サービスを提供しております。

CTCは創立47周年を迎える(2017年11月現在)、国内大手のITトータルソリューションプロバイダーです。社員数がCTCグループ全体で8000名を超えていますが、うち75%の約6000名がエンジニアという、技術者の層が厚いところが強みです。売上が最も高い割合を占めるのが通信・放送分野ですが、次いで製薬業界も含まれる製造業でも多くの取引実績があります。CTCは長年にわたりITインフラ構築を得意としていましたが、ほかアプリケーション開発、また近年トレンドであるクラウドサービスの提供などビジネスの幅を広げています。特に昨今は、運用・保守サービスの提供にも注力しており、お客様のITライフサイクルの全てのフェーズで最適なソリューションとサービスを提供しています。例えば、防災・防犯対策が万全であるCTCのデータセンター施設内における、24時間365日リアルタイムのセキュリティ監視、遠隔から監視・運用・管理サービスを提供するRemote Operation Center(ROC)はCTCの特徴的なサービスです。
このように、IT色の強いCTCの中でライフサイエンス事業部は、欧米・アジアから選りすぐったソフトウェアやコンテンツ、分析機器、運用支援サービスなど、サイエンスのエッジが聞いたソリューションを提供しています。今後もライフサイエンス事業部は、Lhasa社の国内総代理店として、日本のお客様向けにDerek Nexus始めLhasa社のin silicoシステムを普及させることで安全な医薬品創出に貢献できるよう、活動してまいります。

Lhasa Limited Introduction

講演者
Lhasa Limited
Account Manager Asia, Meekee Kok 氏
Lhasa社で、アジアのアカウントマネージャーを務めるMeekee Kok 氏が、Lhasa社の会社概要を紹介しました。また同社の最新トピックスについてもアップデートしました。

同氏が担当するアジアの主なマーケットは、日本始め韓国、中国です。中でも日本は、54組織がLhasa社製品を利用するなどアジアの中で最も大きいマーケットとして位置付け、Lhasa社は今後も日本でのビジネスに注力していきます。
Lhasa社の最新トピックスに、長年CEOを務めていたDavid Watson氏が2017年1月に退職、同年6月にはChris Barber氏が新CEOに着任したことが挙げられます。David 氏がCEOを務めていた間、グローバルにおいて、Lhasa社のin silicoシステムが急速に普及し、Lhasa社の社員規模も約10倍に増加するなど、飛躍的に同社のビジネスが発展しました。製品ポートフォリオにおいては、当初Derek Nexusと代謝予測システム「Meteor Nexus」のみを主力としていましたが、そこにVitic Nexusや分解生成物予測システム「Zeneth」、Purge Factor算出ツール「Mirabilis」が相次いで加わり、ICH M7ガイドライン対応を包括的に支えるソリューションへ群へと成長してきました。Chris氏は、これらの製品開発を受け継ぐだけでなく、多様なコンソーシアム活動の舵取りを担っていくことになります。
大学で有機化学の博士号を取得した同氏は、Pfizer社に20年間在職していました。メディシナルケミストとしての経験を積むかたわら、次第にPKプロファイルからオフターゲット毒性解析に関心を寄せるようになりました。そこで、これまでの経験を生かし、Lhasa社への入社後はサイエンスディレクターとして従事し、同社の科学的な戦略策定に大いに貢献してきました。
もう一つのトピックスは、Derek NexusとSarah Nexusが各々2年連続で、英国女王賞イノベーション部門(2016,2017)を受賞したことです。同賞は、ビジネス分野で貢献した企業に贈られる、英国で最も栄誉ある賞です。主な受賞理由は、両システム共に透明性が高く、ガイドライン対応できる点が、マーケット拡大の著しい成功を遂げたことです。1990年代に初版がリリースされたDerek Nexus(当時の製品名はDEREK)は、既に世界中で、in silico知識ベース毒性予測システムのデファクトスタンダートとして利用されていますが、Sarah Nexusも統計ベース毒性予測システムとして、急速に利用が広まっています。現在、110組織がSarah Nexusを利用していますが、その殆どがICH M7ガイドライン対策としてDerek NexusとSarah Nexusとを併用しています。

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CEO update and future scientific plans

講演者
Lhasa Limited
CEO, Chris Barber氏
Lhasa社CEOのChris氏が登壇し、Lhasa社の科学的活動と将来の方向性について発表しました。

Lhasa社は非営利の教育慈善団体の側面を持つ、有機化学をベースとした毒性予測システムを開発する企業です。
現在のLhasa社を語る上で、前任のCEOを務めていたDavid氏の功績は非常に大きいものとなっています。同氏が着任していた約10年間に、Lhasa社の従業員数、Lhasa member数共に増大しました。現在、製薬だけでなく様々な業界から、360組織以上がLhasa memberとしてLhasa社のin silicoシステムを利用しています。

図:現在のLhasa memberの業種分布 図:現在のLhasa memberの業種分布

またZenethに始まり、Sarah Nexus、Mirabilisと次々に新製品をリリースさせることに成功しました。しかしビジネスの規模が拡大していくなかでも、Lhasa社は非営利団体であり、Honest broker(公正な仲介者)としての立ち位置は一貫して変わっておりません。データ共有を目的とした多数のプロジェクトでは、世界各国の製薬企業からコンフィデンシャルデータが提供されますが、Lhasa社は深い科学的知見に基づく公正な判断の元にデータを選抜し、Derek Nexusなど各種ソフトウェア開発時にこれらデータを用いています。また、大学での講義や学会発表など、ライフサイエンス分野における教育活動にも意欲的に取り組んでいます。規制当局とも密に連携し、医薬品開発に関わるガイドライン対策としてのソフトウェア開発に注力しています。機械学習や統計処理、ケムインフォマティクス、エキスパート推論モデルといった最新のITテクノロジーを応用し、ソフトウェア開発へと生かしていきます。

図

更なるユーザビリティと予測精度向上に向けた、エキスパート推論モデルによる大量データとの統合による予測精度改善(Derek NexusとMeteor Nexus)もその取り組みの1つです。また、Vitic Nexusのみならず他製品のクラウド化についても引き続き検討中です。より良い意思決定に繋がるよう、Negative Predictionの実装や肝毒性などのAlert作成など、毒性の予測精度向上に対する新たな施策も進めています。
将来的には、in vivoバイオマーカーデータとの統合や、ホットトピックスであるAIや深層学習の利用も視野に入れて活動していきます。このように活動の幅を広げ続けるLhasa社は、今後も組織内外とのコレボレーションを精力的に行い、開発医薬品上市の加速に繋がることを目指し、本質的なシステムの改変に取り組んでいきます。

Session-1 Product Update

講演者
Lhasa Limited
Product Manager, Nik Marchetti氏
当セッションでは、Lhasa社でProduct Managerを務めるNik氏が登壇し、主要製品の次期バージョンの新機能について発表しました。

現在のDerek Nexusでは、MutagenicityでのみNegative Predictionが行えますが、Derek Nexusの次期バージョン(Derek Nexus6.0 ※2018年1月リリース済み)では、毒性エンドポイントSkin sensitisationのNegative Predictionが可能になります。これにより、Derek NexusでSkin sensitisationのAlertが検出されなかったクエリ化合物は、続いてDerek Nexusが格納するデータセットのフラグメントとの照合が行われ、Skin sensitisationとの関係に寄与している可能性のあるフラグメントを含むか否かでラベル化されます。また同エンドポイントの予測アルゴリズムが改良され、EC3予測精度も向上します。

図:Derek Nexus 6.0のSkin sensitisation予測結果画面

図:Derek Nexus 6.0のSkin sensitisation予測結果画面

次に統計ベースin silico毒性予測システム「Sarah Nexus」の次期バージョン(Sarah Nexus3.0 ※2018年1月リリース済み)でも、いくつか新機能が加えられます。予測結果画面で、Ames Strainや学習用化合物など付随する情報について、より詳細に参照することが可能となります。

図:Sarah Nexus 3.0の詳細情報画面

図:Sarah Nexus 3.0の詳細情報画面

次に現在開発中のデータマネージメントワークフローツール「Setaria」は当初はGSK社からのニーズに基づき、同社化合物を用いて開発されました。ICH M7ガイドラインに則り、規制当局への申請に必要な、CarcinogenicityおよびMutagenicityのデータや(Q)SAR予測、その他サポート情報を包含するデータベースが構築されています。現在も、より広範な製薬企業で利用可能となるよう、開発が進められています。
分解生成物予測システム「Zeneth」は、他製品よりも比較的リリースされて間もない製品です。そのため、化学反応の網羅性向上や予測エンジンの改良など、より良い予測のための開発が継続して行われています。またユーザーインターフェースも改善されてきており、次期バージョンでは見やすい画面となっています。

図:Zeneth次期バージョンの改良されたインターフェース

図:Zeneth次期バージョンの改良されたインターフェース

このように定期的に改良されていくLhasa社の製品では、使用するバージョンによって予測結果が異なることが想定されます。そこで、手元にある現バージョンと新規バージョンの予測結果が、どのように差異が生じているか比較するツールのリリースに向けて現在開発を進めています。これにより、バージョンアップに伴うモデルの改良により、予測結果で生じる差異を容易に特定することが可能となります。

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Session-1 An update on Skin sensitisation in Derek Nexus

講演者
Lhasa Limited
Knowledge Scientist, Donna MacMillan氏
Lhasa社のKnowledge ScientistのDonna氏より、Derek NexusのSkin sensitisation予測に関する取り組み状況について発表がありました。

近年Lhasa社では、Skin sensitisation予測に注力してきています。従来は、クエリ化合物をエンドポイントSkin sensitisationに対して予測して、Alertが検出されなかった場合は関連する知見が提示されないため、それ以上の解釈を加えることが困難でした。また予測結果が陽性または陰性と判断できるかは、Alertの検出後に適用されるReasoningモデルにより、例えばDoubted, Improbable, Impossibleであれば陰性、それ以外では陽性と言った解釈が一般的でした。そこで、今後リリースされるDerek Nexusでは、Alert検出・EC3値の予測に加え、Negative Predictionの予測など、大幅にSkin sensitisationの予測精度改善に向けて開発を進めています。

図:Derek NexusのSkin sensitisation予測

図:Derek NexusのSkin sensitisation予測

Skin sensitisationは25年以上にわたり、つまり動物試験代替法として重視され、開発が進められてきたエンドポイントです。現在Skin sensitisationは90 Alertが登録されています。予測精度向上において必須となる、ケミカルスペース拡大のために、Lhasa memberから寄贈された自社データを充実させ、そこからのAlert作成が重要となります。当発表では、Bristol-Myers Squibb(BMS)社が提供したデータによるAlert作成後、パブリックデータおよびBMS社のデータに対する予測精度を評価したところ、著しく予測精度が改善された事例が示されました。
更に、定性面での予測も強化されております。Derek NexusでSkin sensitisationに対しAlertが検出されなかった場合でも、2,500化合物以上の既知の皮膚感作性化合物のデータセット(ヒト、マウス、モルモットのデータで構成)から作成されたフラグメントライブラリーに照合し、クエリ化合物中に懸念されるフラグメント構造を持つか否かといった情報が提示されるようになります。それにより、従来のAlert有無だけでなくより詳細なレベルまで感作性リスクの評価、分類が可能となります。

図:Derek Nexus Skin sensitisationのNegative PredictionのAssay hierarchy

図:Derek Nexus Skin sensitisationのNegative PredictionのAssay hierarchy

図:Derek Nexus Skin sensitisationのNegative Prediction分類

図:Derek Nexus Skin sensitisationのNegative Prediction分類

Negative Predictionの実現により、Non-sensitiserとして分類された化合物の陰性の信頼性(グリーン)は、Alertにヒットしなかった全ての化合物をNon-sensitiserとした場合の陰性の信頼性(グレー)に比べて78%と上昇しました。また、Misclassified features(レッド)やUnclassified features(イエロー)は頻繁には発生しませんが、これらの陰性の信頼性はNon-sensitiser(グリーン)よりも低く(これらを含む化合物はより詳細な調査を必要とし)、従ってMisclassified featuresやUnclassified featuresをユーザーに強調(ハイライト)して示すことは的確であるということが、Lhasa社によるクロスバリデーション結果からも示されました(下図)。

図

今後もLhasa社は、Derek Nexusが動物試験代替法の手段として有用なものとなり、製薬以外にも化粧品会社など他業界にも利用可能となるよう、Skin sensitisationの予測モデル開発に注力していきます。

Session-2 Data Sharing opportunities with Lhasa

講演者
Lhasa Limited
Director of Member Services, Scott McDonald氏
Lhasa社で各種Lhasa memberのコラボレーション・サービスを統括するScott氏より、現在のLhasa社が進めているコンソーシアム活動によるデータ共有への取り組み状況について発表しました。
前述したように、Lhasa社はビジネス・マーケット拡大に伴い、組織内外とのコラボレーション活動をますます活発に行ってきております。当発表では、下記活動について概要説明と現在の進捗状況をアップデートしたうえで、日本のLhasa memberにもコンソーシアムの参加条件を説明するなど加入を呼びかけました。

先ずVitic Nexusをプラットフォームとした、各種毒性情報のデータ共有プロジェクトと現在の進捗状況について紹介しました。

表:Vitic Nexus関連データ共有プロジェクトサマリー

表:Vitic Nexus関連データ共有プロジェクトサマリー

次に元来Derek Nexusの開発は、Lhasa社のキュレーションにより選抜されたデータだけでなく、Lhasa memberから提供された自社データに基づきAlertが開発されています。今回の発表では、Novartis社から提供されたデータにより、phospholipidosis 6アラート、hERGチャネル阻害 17アラート、Mutagenicity 1アラートが作成された実例を挙げ、あらためて日本のLhasa memberにもデータ提供の協力を呼びかけました。データを提供したLhasa memberの企業にとって、自社リソースを全く使わずAlertが開発されるため、大いにメリットがあると考えられます。
最後に、外部の機関主導によるコンソーシアム活動「eTOX」と「eTRANSAFE」においてもLhasa社は精力的に活動しています。eTOXは、EUやEuropean Federation of Pharmaceutical Industries and Associationsなどを中心とした世界中の多数の製薬企業が参画するコンソーシアムです。製薬企業が保有する自社の高品質な毒性試験データを提供することで、毒性メカニズムの解釈に役立つツールeTOXsys(www.etoxys.com)を開発しています。eTRANSAFEは、創薬開発におけるトランスレーショナル安全性評価の実現性を劇的に改良するツールの開発を目指しています。いずれのツールに置いても、信頼性の高いデータが必須となります。データ共有において、Lhasa社は公正な仲介者の立場からプロジェクト推進に貢献しています。
今後も、Lhasa社はこれらコンソーシアム活動の幅を広げ、化粧品分野においてもデータ共有を進めていきます。

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Session-3 Mirabilis-using purge arguments as part of ICH M7

講演者
Lhasa Limited
Account Manager Asia, Meekee Kok 氏
2016年12月末にリリースされて間もない、変異原性不純物 Purge factor算出ソフトウェア「Mirabilis」の製品概要とICH M7ガイドライン対応の中で、どのようにサポートできるかについて発表がありました。

医薬品の合成経路内において不純物が生成されることがあります。例えば出発物質と試薬との化学反応により、中間体や不純物など最終物質以外の化合物が生成されることがあります。この最終物質である原薬(API)に含まれる不純物のうち、突然変異原性のリスクを含むものもあります。この変異原性不純物の含有量が原薬中で、規制で定められた毒性学的懸念の閾値(TTC:Threshold of Toxicological Concern)以内となるよう制御する必要があります。合成中に不純物が見つかった場合は、APIから不純物を除去するために、洗浄・結晶化・蒸留・蒸発・下流の合成反応など様々な実験的手段が考えられます。しかしICH M7ガイドラインのSection8オプションに定められるように、API中の不純物が許容限度値以内と考えられる場合には、試験をしないで良いとされています。その際に用いられるのがPurge factorです。Purge factorは不純物の除去率の指標となる値であり、この値が最終的な不純物の質量が規制で求められる許容限度値以内であることを証明できると、ICH M7ガイドラインのオプション4を提供することができます。Purge factorは、工程中の上流点における不純物の量を下流点における不純物の量で除した値で求められます。

図

http://www.fda.gov/downloads/drugs/guidancecomplianceregulatoryinformation/guidances/ucm347725.pdf)。
そこでLhasa社を中心にAztraZeneca社始め21組織がコンソーシアムを立ち上げ、APIの合成経路内で同定された遺伝毒性不純物の潜在的残存性を迅速に評価できるようにするソフトウェア開発を目指した3か年データ共有プロジェクトが進められてきました。この中で開発されたソフトウェがMirabilisです。Mirabilisは、科学者が化学反応性と物理化学的特性を考慮した知識ベースに基づき、ユーザーフレンドリーな方法でPurge factorを予測します。Mirabilisは、Purge factor算出を基準化することを目的としています。研究者によって、Purge factorの算出方法が異なることがあるため、Mirabilisを用いると一貫性を保った手法により値を求めることができるようになります。Mirabilisには、コンソーシアムメンバーから提供された実験によるPurge factor値により高精度な予測値を提示しますが、その不純物に突然変異原性があるかどうかはユーザーの判断に委ねられます。
Mirabilisが内部で包含するKnowledge Matrixは、Purge factor予測時に用いられるアルゴリズムです。不純物クラスと反応クラスとの組み合わせによりPurge factorを算出します。Purge factor予測の要となるこのKnowledge Matrixは、コンソーシアムメンバーによる慎重な討議により開発が進められました。現在は、15の不純物クラス、57の反応クラスを包含しており、クエリ化合物の構造式を入力すると、自動的に構造式のパターンを入力して不純物クラスと反応クラスより解釈、Purge factorが算出されます。

図:MirabilisによるPurge factor算出例

図:MirabilisによるPurge factor算出例

今後もデータの拡充によりMirabilisの予測精度向上が見込まれますが、当ソフトウェアを使用する最大のメリットはFDAなど規制当局に認知されていることにあります。Purge factor自体は、Excelや電卓でも計算できるものでしょう。しかし、規制当局が認める計算手法を搭載し、またICH M7対策で利用できるQSARモデル(Derek NexusやSarah Nexus)として認められているLhasa社が開発したソフトウェアということで、規制当局に申請するデータソースとしてMirabilisを記載することに意義を感じ、採用する企業が増えています。日本国内では必ずしも全ての製薬企業が、既存業務でPurge factorを用いているとは言えない状況ではありますが、どの企業もPurge factor採用に大いに興味を持ち、今後業務への導入を検討している企業も多く見受けられます。このように、ICH M7対応としてのPurge factorの運用確立においてもMirabilisは大きく支援します。

Session-4 Progress on Lhasa's Toxicity Information Management System

講演者
Lhasa Limited
Product Manager, Nik Marchetti氏
毒性試験データベースVitic Nexusの将来リリースバージョンの開発状況について、Nik氏より発表がありました。
Vitic Nexusは化学ベースの毒性情報データベースです。コンソーシアムメンバーにより、公的データ・インハウスデータの厳正なるキュレーションにより選抜されたデータで構成されており、品質の高さに定評があります。Vitic Nexusは2017年11月現在、約400,000毒性データ、約20,000化合物を包含しておりますが、毎年最新の情報に更新されています。同データベースは、他の市販されているデータベースと比べてデータ数でいえば最大級ではありません。しかし、Vitic NexusはICH M7ガイドライン対応にも使用できることを目的として開発されているため、信頼性の高いデータに絞って収載されています。データ量というよりも品質の高さを重視しており、今後もより一層の改良が計画されております。
将来リリース予定のバージョン開発では、検索条件の設定や検索結果参照の画面、データの出力機能の強化に向けて進められています。また、Vitic NexusはクラウドベースのSaaSアプリケーションであり、Webブラウザーで使用できるため、最新のWebブラウザーで稼働できることも考慮に入れて開発を進めています。
デモでは、開発中のバージョンの画面を披露しましたが、画面のインターフェースが格段に洗練されており、とても使いやすそうな印象でした。

図:次期バージョンのVitic Nexus検索画面

図:次期バージョンのVitic Nexus検索画面

更にNik氏は、各製薬企業が保有する自社内データをVitic Nexusに取り込んで使用したいというニーズに対し、データインポートの機能を強化することで応えたいと述べました。当発表では、「Vitic Nexusのデータをどのような形式で(WordやExcelなど)出力できると良いか?」といった質問を聴衆に投げかけて意見を吸い上げるなど、ICGMの本質であるLhasa memberと共に製品開発していくために意見交換する場面も見られました。

Session-5 Sarah Nexus-The statistical-based system for ICH M7

講演者
Lhasa Limited
Knowledge Scientist, Alex Cayley氏
当セッションでは、Lhasa社でKnowledge Baseの開発に携わるAlex氏よりSarah Nexusの紹介と将来リリースバージョンの開発状況について発表がありました。

Sarah Nexusは、2014年にリリースされた統計ベースのin silico毒性予測システムです。この時期は既にICH M7ガイドラインが施行されており、in silicoモデルを利用するには2種類の相補的なQSARモデル利用の需要が高まっていた時期でもありました。そこでよりICH M7ガイドライン対策のin silicoシステムをトータルで提供できることを目指し、Lhasa社知識ベースの定性予測システムのDerek Nexusに加え、統計ベースのin silicoシステムの開発に取り組み始めました。それが、現在のSarah Nexusです。開発当初から、ICH M7ガイドライン対策を意図して開発されたSarah Nexusは、同ガイドライン対応に有効な強みを多く持っています。また、Derek Nexusで獲得した揺るぎない信頼感のもと、世界中のLhasa memberでは、Derek NexusとSarah Nexusを併用する企業が急速に広まり、現在110社がSarah Nexusを利用しています。

図:ICH M7ガイドライン対応におけるSarah Nexusの適用ポイント

図:ICH M7ガイドライン対応におけるSarah Nexusの適用ポイント

Sarah Nexusのコンセプトは、統計手法に基づき変異原性予測を行います。トレーニングデータセットは、公的データにLhasa memberから提供された信頼性の高いデータが用いられるため、精度の高い予測が実現していることはLhasa社によるValidationにより実証済みです。

図:Sarah Nexus新旧バージョンの予測精度バリデーション結果

図:Sarah Nexus新旧バージョンの予測精度バリデーション結果

Sarah Nexusの予測手法は、クエリ化合物と、厳正に行われたキュレーションにより選抜したAmes試験データから構造的な特徴により断片化した構造フラグメントとを照合させ、Recursive Partitioning法により導き出した仮説に対し、自己学習機能と階層ネットワークモデルにより予測結果をアウトプットします。Sarah Nexusの画面では下図のように、全体の予測信頼性(PositiveまたはNegative)の値として予測結果が得られますが、そのもとになった仮説や学習用化合物を参照できるなど根拠を明らかにできるという特長を持ちます。これは、予測の根拠がブラックボックスであった従来型の統計ベース定量予測システムと大いに異なる点です。Sarah Nexusのこの高い透明性は、ICH M7ガイドライン対策のExpert Reviewにとって大変有用なものです。これは、開発当初からICH M7対策を意図して開発されたという側面があるからでしょう。

図:Sarah Nexusの予測結果アウトプット方法

図:Sarah Nexusの予測結果アウトプット方法

Sarah Nexusは今後もより高い精度の予測を目指し、改良が加えられます。現在、トレーニングデータセットの拡充や、Expert Reviewにより役立つような学習用化合物に関するより詳細な情報やAmes試験のStrainに関する情報が予測結果を示されるようになります。

図:Ames Strain詳細画面

図:Ames Strain詳細画面

Expert Review workshop

Expert Review workshop

当セッションは、in silicoシステムを用いたICH M7ガイドライン対策におけるExpert Reviewをグループワークで行うという実践的な内容でした。Expert Reviewの例題を、参加企業と検討し合いました。特にClass3からClass5に分類された不純物について、QSARモデルによる評価が適用可能となります。もちろん、QSARモデルを用いずAmes試験を実施することでも対応可能です。しかし、よりスピーディに医薬品の開発を進めるために、実験よりもin silicoのQSARモデルの予測を採用する企業が増えています。
ここで、in silicoシステムを使用する際には、2種類の相補的なQSARモデル(統計ベースと知識ベース)の利用が推奨されており、また予測後には必ず有識者によるExpert Reviewを実施し、不純物の突然変異原性のハザード評価を結論付けることが必要となります。Lhasa社のDerek NexusとSarah Nexusはそれぞれアルゴリズムの異なる2種類の相補的なQSARモデルとして利用することが可能です。世界中の製薬企業では、両システムを併用している事例が多くあります。Derek Nexusが知識ベースの毒性予測システムとして利用されているのはもちろんのこと、最近のLhasa社の調べにより、統計ベースの毒性予測システムとしてSarah Nexusもトップクラスのシェアがあることが分かりました。いずれのシステムも高い透明性や十分な根拠情報の提供など、ICH M7ガイドライン対策で用いるin silicoシステムの要件を満たしています。Sarah NexusはFDAも開発に関わっているなど、Derek Nexusと共に規制当局からも認知されていることが、世界中で採用される大きな理由となっています。

図:ICH M7ガイドラインにおける処理パターン

図:ICH M7ガイドラインにおける処理パターン

しかし、いかに信頼性の高いin silicoシステムを用いてもExpert Reviewのステップを省略することはできません。当発表で、Lhasa社がExpert Reviewには化学、毒性、薬物知識の知識を持つエキスパートが行うことが重要としました。これらのExpert Reviewで、Lhasa社の各in silicoシステムは支援します。

図:Expert Reviewを支援するLhasa製品

図:Expert Reviewを支援するLhasa製品

また当セッションのワークショップでは、Derek NexusとSarah Nexusの予測結果が矛盾する場合など、解釈の難しい例題の化合物を用いて、Expert Reviewをどのように進めればよいか、ユーザーであるお客様とLhasa社がディスカッションをしながら結論へと導きました。

図:Workshop Exampleの例

図:Workshop Exampleの例

製品紹介ページ

※記載されている商品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
※掲載されている情報は、発表日現在の情報です。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。
※部署名、役職名、その他データは、イベント開催当時のものです。