第6回
デスクトップが画像ファイルでいっぱいになっていませんか?
改ざん防止を忘れがちな画像データのデータインテグリティ対応
前回まで、電子天秤の秤量値や測定機器出力データに対する、電子実験ノート(ELN)を用いたデータインテグリティ対応についてご紹介しました。
さて今回は、顕微鏡やデジカメによる撮影画像のデータインテグリティについて考えてみましょう。
変更履歴記録や最新版管理がしにくい画像データ、膨大なデータ容量がファイルサーバーの空き容量を圧迫
読者の皆様は、顕微鏡やデジカメによる撮影画像のデータと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
血液の画像や細胞、CMC業務では製剤の粒子画像などではないでしょうか。目覚ましい最近の技術進歩により、顕微鏡の性能が上がってきており、撮影画像が高解像度になってきています。そして、データが高解像度になるにつれ、容量は増加します。そのため、数MB・GBにもなる画像データは、データ保存場所の容量不足が課題になることもあります。
また近年の顕微鏡は、ネットワーク接続可能な機種が多く市販されています。そのため、顕微鏡の撮影画像データ(生データ)は、社内ネットワーク経由で、部門管理のファイルサーバーに保存されるケースが多いです。しかし、このプロセスは前回もご説明しましたが、部門管理のファイルサーバーでは厳密なアクセスコントロールが困難なため、改ざん防止策としては不十分な恐れがあります(図1-①)。
一方デジカメは、SDカードに撮影画像が保存されます。画像データを使用したいとき、デジカメ本体からSDカードを抜いて、個人用PCに画像をコピーしているのではないでしょうか。軽量で薄いSDカードだけに、個人用PCに持ち運ぶ途中で、紛失するといったリスクがあります(図1-②)。また、個人用PCに移す際に、とりあえずデスクトップにコピーことも多いのではないでしょうか。しかし、これを繰り返すうちにデスクトップが画像データでいっぱいになり、どれが最新か分からなくなることもあるでしょう(図1-③)。
画像ファイルのハンドリングには、WindowsやMicrosoft標準ソフトウェアが手軽に利用できます。特殊な専用ソフトを使わなくても、画像の参照や編集が行えます。そのため、画像にアノテーションなど属性情報を簡単に追加できます。しかし、この容易さが落とし穴です。これら汎用ソフトウェアには、監査証跡やバージョン管理の仕組みがなく、加工履歴の記録漏れや改ざん防止対策の難しさといった課題があります。
このように、画像の信頼性担保は研究者の運用に依存するため、意図しない加工に注意する必要があります(図1-④)。
さらにデータ容量が大きいという特性が、管理と運用の複雑さに拍車をかけます。
こうした課題に対し、電子実験ノート(ELN)はデータインテグリティ対応策として、有効だと考えています。
ELNは、画像の容量や画像枚数に柔軟に対応してデータ保管
それでは既存の業務フローにELNを導入すると、どのようにリスクが軽減するでしょうか。ELN導入後の運用イメージを下図に示しました。
先ず、顕微鏡やデジカメを社内ネットワークに接続するようにします。最近はWifi接続可能な機種も増えています。これにより可搬媒体経由のデータ移動を廃止します。そして前回と同様、生データをファイルサーバーにコピーする際の、格納するタイミングや場所はSOPで運用策定します(図2-①)。
また近年は、生データの保管にクラウドサービスを利用するケースも増えてきています。例えば、コンテンツマネジメントクラウドサービス「Box」は容量無制限でデータを保管できるため、容量の重い画像をクラウドサービス上に保管できます。ちなみに、このBoxは、監査証跡や細かいアクセス権限管理(編集・削除不可)などALCOA原則を満たす機能がある程度標準装備されているので、データインテグリティ対応にクラウドサービス利用も選択肢に入れることができます。
次にELNで、実験で撮影した画像データの記録をしますが、これにはいくつか方法があります。
一つ目は、ELNのノート画面から、生データが保存されているファイルサーバーのディレクトリパスへのリンク追加する方法です(図2-②)。生データ全体の容量が重かったり、ファイル数が多かったりするときに、全データをELNに保存するのは得策ではありません。重要なのは、ELN内に全データが保存されていることではなく、生データが必要になったときにいつでも辿れる仕組みなのです。
二つ目は、ELNのノート画面に、画像のプレビュー表示させたい場合です。紙の実験ノートでは、写真をノートに貼りつけ、手書きで記号や文字を追加できたりします。同じ使用感を望む場合は、ノート画面に画像を貼りつけてからコメント付加すると良いでしょう。ELNでは、追加したコメントも検索対象になり、また監査証跡が取れるようになります(図2-③)。
三つ目は、複数の画像をプレビュー表示させる方法です。ふたつめと似ていますが、少し仕組みが異なります。IDBS社E-WorkBookの、Managed File Set(MFS)機能を利用すると、ノート画面にプレビュー表示させることができます(図3)。しかしこの場合は、ファイルの編集は行えず表示のみと可能となるため、生データはそのまま維持され改ざんを防止できます。
このように、煩雑な運用になりがちな画像データも、ELNを利用することで、データインテグリティ遵守が可能になります。
さて次回は、ELNによるデータインテグリティ対応のポイントについておさらいしてみましょう。
電子実験ノートシステムE-WorkBook について
E-WorkBookは電子実験ノートプラットフォームです。試験単位で関連データやファイルの作成・管理ができ、部門やプロジェクト間のデータ共有が行えます。21 CFR Part 11 対応ソリューションであり、セキュリティやバージョン管理の完備、電子承認やタスク管理もできるため、ファイルサーバーの発展形としてもお使いいただけます。
コンテンツ・マネジメント・プラットフォームBox について
容量無制限のクラウドストレージです。1ファイルあたり10GBまで格納可能であり、大容量のファイル共有を実現します。ビッグデータ時代に相応しいクラウドサービスです。
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