この記事は、CTCによるAIを用いたテキスト解析事例「2020年ボランティア活動のトレンド分析からモチベーションを探る」の第2回です。
前回<パート1>では、AIを用いたテキスト解析エンジンQuidが、過去27か月間のボランティアに関連するニュースやSNS投稿記事など日本語のテキスト情報を解読し、ボランティアに関するトピックの情報量から、時系列による活動への関心度を推量しました。分析によると、2020年に大流行した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響による、活動の低下はみられませんでした。むしろ、2021年に開催延期された東京オリンピックや被災地支援、コロナ関連では医療機関におけるボランティアの需要が新たに発生するなど、コロナ禍で外出が困難な状況下にもかかわらず、ボランティア活動への意欲は高まっているように見受けられました。
このように、2020年に話題になっているボランティアからトレンドの概略を把握できたところで、今回はボランティア活動に参加するモチベーションのインサイト(洞察)を得るため、前回の解析結果からさらに掘り下げて調査してみました。
ボランティア活動の原動力を多面的に考察する
下図は、Quidに2020年のボランティア活動に関する情報(ニュースやSNSなど)を読み込み、情報の類似度で分類したネットワークマップです。
特定のクラスターを細分化するために、ヒストグラムで表示させてみると(下図)、各ボランティア活動の詳細な内容と、それぞれの情報量が可視化されます。
この図で特定のバーをハイライトすることで、分類されたツィート内容を表示できます。
これらの情報を読み解きながら、ボランティア活動のモチベーションではないかと、得られたインサイト(洞察)を、挙げてみました。
- 高まる社会貢献への意識
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行を受け、2021年に開催延期となった東京オリンピックは、注目度の高いテーマです。これはボランティア活動においても東京オリンピックに関連する投稿内容が上位を占めていました。
この理由として、特設サイトやSNSなどインターネットが、ボランティア活動募集の重要なチャネルとなっていることが挙げられます。また募集だけでなく、ボランティア活動に申し込みした人々が、「選手がんばれ」といった純粋に選手たちなど関係者を支援したいという気持ちを表現した投稿が多く見られました。このような投稿が共感を呼び、さらに拡散されていくという現象を巻き起こしていました。
パート1で、ボランティアについてツィートしていた方々の職業で最も多いのが学生であると分かりました。これを裏付けるように、就職活動でアピールするために、ボランティア活動の経験を積むという投稿も多数見られました。昨今ボランティア活動は、学生の社会貢献としてより身近な位置付けになっていることが活動のモチベーションになっているのでしょう。
また時代を反映している特徴的なのが、新型コロナウィルス感染症治療薬の治験ボランティアです。新薬開発では、臨床試験で人に対する有効性や安全性が立証されてから、医薬品が上市されます。その臨床試験で自ら投与を受けモニターとなる治験ボランティアです。同感染症のワクチン開発が急ピッチで進む中、国内でも治験が実施されています。2020年は、新型コロナウィルス感染症治療薬が待ち望まれる中、志願した人々の社会貢献への意識が象徴的です。
また参加するだけが、社会貢献ではありません。治験や被災地支援、動物の里親になることは、条件や事情によりやむを得ず支援できないこともあります。こうした人々は、せめて情報拡散で貢献したいといった意識から、ボランティア募集情報が、インターネットを通じて拡散されていったのでしょう。
このように時代のニーズに応えられる社会貢献を果すというのが、ボランティア活動のモチベーションになると考えられます。
- 企業が社会人のボランティア活動をバックアップ
今回の分析では、学生だけでなく社会人も多く、ボランティアに興味を持っていることが示されました。社会人の場合は、学生よりも時間的制約をより多く受けています。すると、「どのようにしてボランティア活動に充てる時間を捻出できているのだろうか。」という疑問が湧きます。
この疑問に対し、Twitterへの投稿情報を分析して得られたインサイトは、企業の社会貢献への取り組みがありました。
昨今はCSR(Corporate Social Responsibility)「企業の社会的責任」活動に取り組む企業が増えており、企業の一員としてボランティア活動に参加する機会が増えたことが挙げられます。
また、労働者が自発的に無報酬で社会に貢献する活動を行う際、その活動に必要な期間について付与される休暇「ボランティア休暇制度」の導入が、多くの企業に導入されていることも示唆されました。
このように、従来の労働時間をボランティア活動に割り当てられる制度の整備が、より社会人の同活動に対するモチベーション向上に貢献していると考えられます。
- 得意分野を活かすことや自己啓発を目的とする
東京オリンピックに関連するボランティア志願者に多かったのが、海外からの入国者に対して通訳をするという語学ボランティアです。これは、語学というスキルを持った人々が、得意分野を活かして行う、典型的なボランティア活動の例です。
これは語学に限らず、(主に子供を対象とする)アートや将棋教室の講師といった文化系ボランティアに参加する人々に、多いモチベーションではないでしょうか。
得意分野ではないもののボランティア活動の経験により、スキルアップを図るという目的が記載された投稿内容も多く存在していました。
ボランティアは、支援を受ける側だけでなく、提供する側にとっても自己啓発を促す、貴重な体験として捉えられているのでしょう。
- 純粋な「好き・楽しい」が究極のモチベーションではないか!?
パート1で、ボランティア活動に対する投稿内容の感情分析について述べましたが、「子供が好き」・「動物が好き」・「人々と交流するのが好き」というポジティブな感情が綴られているツィートが多く存在しています。
実に印象的だったツィートがこちら。
この投稿が象徴するように、ボランティア活動の「好き」や「楽しい」に理由はないのかもしれません。
また、人の本能から沸き起こる心情こそがボランティア活動に携わるモチベーションなのでしょう。
まとめ
ボランティア活動とは「金銭などの報酬を顧みない活動」のため、「善意」の象徴的な活動です。経済活動ではないからこそ、人の役に立ちたいと達成意欲が、より強く発揮される領域です。
時には危険を伴うこともあるため、「リスクを冒してまで行動に至るには大きなモチベーションが発動しているはずである」という前提のもと、膨大なテキスト情報を自然言語処理による分類からトレンドを把握してみましたが、時代を反映したモチベーションについて、様々なインサイト(洞察)が得られました。
さて2020年国内のボランティア活動を分析したところで、果たして海外では何が話題になっているか、新たな興味が湧きました。そこで、2020年海外におけるボランティア活動のテキスト情報分析をしてみたところ、日本とは全く異なるトレンドが浮かび上がりました。
<パート3>に続く