製品トピックス2020/9/1
LIMSやサンプル管理ソフトを使って研究室の効率化を実現する方法について
原文:
https://www.titian.co.uk/news-landing/news/how-to-reduce-lab-waste-using-lims-software
近年、私たちはプラスチックごみが環境に与える影響を深く意識するようになりました。BBCの番組「ブループラネットII」などが一般の人々の意識に大きな影響を与えました。“プラスチックは使い捨て”という考えはもはや受け入れられません。しかし、最近までの科学研究はこの使い捨てプラスチックの浪費についてはほとんど見ぬふりをしてきました。
もはやそういう時代ではありません。研究室の廃棄物を減らし、プラスチックのリサイクルや再利用に焦点を当てた記事が、近年多く見られるようになりました。
- “Can science break its plastic addiction?”(科学はプラスチック中毒を断ち切ることができるのだろうか?)このWellcome誌の記事はガーディアン紙[1]とCNN[2]にも掲載されました。
- “Reduce, reuse, recycle”(研究室での持続可能性の追求)
- “How to reduce your lab’s plastic waste”(研究室のプラスチック廃棄物を減らす方法)The Biologistより、などの記事があります。
University of Exeter(エクセター大学)の調査によると、世界中の研究室では毎年550万トンのプラスチック廃棄物が発生しており、2012年時点では世界のプラスチックリサイクル量の83%に相当していたと推定されています。この問題の重大性は、研究室の廃棄物を回収して「オートクレーブ処理」(多大なエネルギーを必要とするプロセスであり、最終的には埋め立てに送られる)に携わる作業者しか知り得ません。科学研究がなければ、21世紀の生活に欠かせない知識、技術、製品、医薬品を手に入れることはできませんが、研究室の廃棄物を減らし、科学研究をより持続可能なものにしなければならないという意識が高まっています。
一見、サンプル管理ソフトウェアやLIMSシステムは、研究室の廃棄物を削減するための有効なツールには見えないかも知れません。しかし、サンプル在庫管理の様々な局面で効率を少しずつ改善することで、廃棄物とエネルギー消費量を大幅に削減することができます。
この削減効果はプラスチック廃棄物に対してだけではなく、研究室における実験器具、試薬、貯蔵庫、エネルギー消費の削減にももたらされます。
1. サンプル履歴の追跡により研究室からの廃棄物の最小化が可能に
サンプルがどのくらいの期間保管されていたのか?その間にどんな事象が起きたのか?サンプルの以下のような事象を正しく記録しておけば、様々な効率化を図ることができます。
保存期間:サンプルの保存期間をどう定めていますか?さらにそれを正確に追跡することができていますか?一定の月数である必要がありますか?それとも、サンプルの使用状況に応じて定めていますか?もしそうであれば、使用量の少ないサンプルが不必要に捨てられることを防ぐことができます。
サンプル使用状況:プロジェクトの終了や所有者の退職によりサンプルが使用されなくなった場合は、頻繁にアクセスする必要がない中央のリポジトリに保管することで、より効率的にサンプルを保管することができるでしょう。あるいは、廃棄することで保管スペースが確保され、冷凍庫を増設する必要がなくなることもあります。
凍結/解凍サイクル:低分子溶液サンプルの解凍と再凍結を繰り返すと、サンプルの品質に影響を与えることはよく知られています。毎年すべてのサンプルを再ストックする代わりに、融解/凍結の回数を把握し、最もリスクの高いサンプルを確認することで、交換が必要なサンプルを特定することができます。
上記の3つの事象の履歴を記録することのメリットには以下があります。
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サンプルを探せること:
- サンプル更新の必要性を減らして実験器具と研究者の時間を節約することができます。
- サンプルを早期に更新する必要がある場合にそのサンプルを明示します。これにより下流の実験器具や高価なアッセイ試薬を無駄にせず、不正確なデータの生成を避けることができます。
サンプル管理ソフトウェアまたはLIMS、例えばTitian社Mosaicはサンプルの作成から廃棄までのライフサイクル全体を管理して、サンプルが凍結/解凍サイクルを経た回数を自動的に記録するように設計されています。実験室で行われたことを簡単にレポートにまとめ、上記節約の効果を確認することができます。
またMosaicソフトウェアは、ラボ自動化ベンダーと緊密に連携することで、データの正確性とトラッキングを強化、古いサンプルを特定して除去することでさらなる効率化を実現しています。例えば、Beckman Coulter Echo® (旧Labcyte)によって測定されたサンプルのDMSOパーセンテージの情報は、Mosaicソフトウェアのインターフェースを介して追跡し報告することができ、劣化したサンプルがある閾値を超えるとすぐに除去するためのフラグを立てることができます。
2.実験器具の効率的な使用による廃棄物の最小化
フルプレートを使用した分析評価(assays)の実行により必要な試薬やプレートを最も効率的に使用することができますが、研究者は必ずしも化合物のフルプレートを各分析評価に使用する必要はありません。
Mosaicソフトウェアには、いつ、どの分析評価を実行するかの手順などを提供する分析評価リクエストモジュールがあります。研究者はそのシンプルなインターフェースを使用して、サンプル上での分析評価の実行を要求することができます。組織内の複数の研究者が同じ分析評価を要求することができ、Mosaicはすべての要求を分析評価の待ち列に入れます。これにより、サンプル管理者は分析評価を最も効率的に実施するために処理するサンプル数を選択することができます。次の分析評価実行に追加するサンプルをいくつか残しておくこともできるでしょう。
サンプル管理システムやLIMSシステムの在庫は、簡単に検索できます。これにより、同じものを別々に要求して在庫をバラバラに管理することなくグループや部門で試薬を共有することができます。この機能は稀にしか使わないもの、特に保存期間が限られているものには特に有効です。試薬のコストを削減できるだけでなく、洗浄やリサイクル、廃棄される容器の数を減らすことができます。
液体の分注では手動か自動かにかかわらず、通常チップは二次汚染を避けるためにシングルユースになるため、消耗品の廃棄物が多く発生します。研究室でこれを減らすことができる以下の3つの方法があります。
- チップの再利用:システム液 やDMSOを分注する場合ピペットのチップを交換する必要があるでしょうか?チップの使用量は、リキッドハンドラーのプログラミング時に設定できることが多く、プラスチックの使用量を減らすことができます。Mosaicのような統合されたサンプル管理ソフトウェアを使用すると、サンプル処理のワークフローを作成する際に、チップを変更するタイミングを指定することができ、装置ごとに個別のスクリプトを書く必要がありません。
- チップレス分注:アコースティックディスペンサーはピペットチップを必要としないため、廃棄物の1つの要因を取り除くことができます。Mosaicソフトウェアは、Beckman Coulter EchoやAccess®プラットフォーム(旧Labcyte)、AcoustiX® Tubesとの緊密な連携が可能で、アコースティックリキッドの取り扱いを簡単に管理することができます。
- 小型化された分注:ナノリットルの分注量で分析評価を行うことで、ピペットに必要なプラスチックの量を減らし、より少ない数の高密度プレートでの分析評価に集約をすることができ、サンプルを保存することができるので、より多くの分析評価を行うことができます。アコースティックディスペンサーは、小型化された分注量とチップレス分注の両方の利点を兼ね備えています。
3.効率的な冷凍倉庫の管理による節約
以前のブログで"実験用冷凍倉庫の維持管理にはいくらかかるのか?"という議論をしました。
要約すると、標準的な-80℃の実験室用冷凍倉庫1台で、毎年約6900kWhの電力を消費しています。エネルギー価格が高い国では、電気代だけで毎年約1600ユーロ/1700ドル/1400ポンドが各冷凍倉庫に費やされていることになります。使用される電気のかなりの割合を生成するために化石燃料が使用されている場合、1kWhあたりに生成される二酸化炭素の量を計算すると、6900 kWhは2000~5000キログラムの二酸化炭素を生成すること、または平均的な自動車を11,500マイル運転することに相当します。これはエネルギー集約的な空調を必要とする冷凍倉庫の建物のエネルギー需要を考慮する前に検討すべきことでしょう。
そのためには、冷凍倉庫のスペースを最も効率的に利用して、それぞれの冷凍倉庫に保存できるものを最大限に活用し、必要とされる冷凍倉庫の数を最小限に抑えることが必要不可欠です。
Mosaic FreezerManagementはシンプルで手頃な価格のソフトウェアで、ストレージ全体の在庫を追跡して冷凍倉庫の使用状況を最適化します。これを実現する例えば以下の機能があります
- オペレーターや研究者を正確なサンプルの位置に誘導し、フリーザーのドアが最小の時間だけ開くようにすることで、エネルギーとサンプルの完全性を維持します。
- サンプルの特性を記録し、異なるサンプルがそのサンプルタイプに適した温度に保たれていることを確認します。
- 試薬などの重複購入を避けるための検索機能があります。
4.再利用とリサイクルについて
最後に、記事の最初のテーマに戻りますが、すべての研究室のプラスチックがリサイクルできないほど汚染されているわけではありません。以下の例はフランシス・クリック研究所(FCI)によって報告されたもので、プラスチックメディアのボトルに含まれるブドウ糖が関係しています。ブドウ糖(砂糖)自体は危険ではありませんが、リサイクル業者は一般的にラベルの科学的な専門用語を注視しています。FCIは、適切な専門知識を持つ業者を見つけることで、最初の洗浄後のメディアボトルをリサイクルするようになりました。
リサイクル業者は通常、混合物を扱うことができませんので、リサイクル可能な実験器具の選定方法を見直す必要があるかもしれません。例えば、チューブのキャップと本体が同じ材料でできていることを確認します。あるいは、いくつかのアイテムを洗浄可能で再利用可能なガラスに再生することもできます。
優れた在庫管理用ソフトウェアは、実験器具の種類を追跡し、使用状況に関する重要なレポートを提供するため、上記のプロセスにも役立ちます。これにより研究室で最も頻繁に使用されているものとそうでないものを分類することができます。実験器具の種類を減らしたり、材質を変えたりすることで、研究室内の廃棄物を大幅に削減できるかもしれません。
廃棄物を削減するためには全体像の把握が重要です
Mosaicのような効果的なサンプル管理ソフトウェアやLIMSシステムは、サンプル在庫の管理のあらゆる面で、研究室の無駄な領域を特定し効率化を図る上で重要な役割を果たします。これらの節約はプラスチック廃棄物だけでなく、実験器具、試薬、保管庫、エネルギーの消費量の一般的な削減にも適用され、研究室のランニングコストを改善し廃棄物を削減します。
参考文献
[1] ガーディアン紙 - 研究室のプラスチック中毒は抑制できるか?
[2] CNN - 科学はプラスチック中毒を克服することができるか?