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沢井製薬株式会社 ジェネリック医薬品開発だからこそ、原薬中・製剤中のの不純物の変異原性評価・管理にin silico毒性予測システムDerek Nexusが活躍!

沢井製薬株式会社
  • 沢井製薬株式会社
    生物研究部 生化学グループ
    グループマネージャー
    田中 祥之 様

国内最大手のジェネリック医薬品開発メーカー(以下、ジェネリックメーカー)の沢井製薬(以下、沢井)は、安全で高品質なジェネリック医薬品の開発に向けて、ICHM7ガイドライン「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中 DNA 反応性(変異原性)不純物の評価及び管理」(以下、ICH M7ガイドライン)に従い、in silicoシステムによる毒性評価に、最新の豊富な毒性知見を持つLhasa社知識ベース毒性予測システムDerek Nexusを導入しています。
同システムは、開発品目決定後の原薬選定時に、より安全な原薬を求めるための指標の一つとして必須で使用されてきており、今では全開発品目について、原薬・製剤に含まれる不純物や中間体、代謝物の全ての構造式は必ずDerek Nexusで変異原性をチェックするという運用が確立しています。このようにDerek Nexusは十全を期したジェネリック医薬品の申請・審査に備え、沢井に期待されている有効性・安全性が保証されているジェネリック医薬品開発と安定供給を、常に裏方で支える重要なシステムとなりました。
沢井は、今後もますます品質・安全を第一にしたジェネリック医薬品をいち早く患者様に届けることを目指し、ITシステムを最大限に活用した毒性評価業務の効率化や信頼性向上を図ります。

課題と効果

  • Before
    • 課題①
      近年の製薬業界では、ジェネリック医薬品の申請において、先発医薬品と同等またはそれ以上に、原薬中の不純物について変異原性のリスク管理が求められてきたため、全ての不純物について個々に研究者が手作業で情報検索するのでは、網羅的に効率良く最新の変異原性情報を探し出すことが困難になってきていた。
    • 課題②
      原薬中の不純物の安全性を示す科学的根拠を示せる確実な手段を求めていた。
    • 課題③
      ジェネリック医薬品の開発では通常非臨床における安全性試験は行わないため、試験を行わなくても安全性を示せるような試験の代替法が重要だった。
  • After
    • 効果①
      Derek Nexusを利用することで、検索対象の不純物など化合物について、最新の知見に基づいた予測が行われ、変異原性に関与する部分構造や予測結果を指示する文献、既知化合物など網羅性・信頼性の高い情報が明示されるため、化学構造式に詳しい研究者でなくとも理解しやすく、容易な毒性評価ができるようになった。
    • 効果②
      安全性を示す科学的根拠に関する万全な回答が用意できるようになった。
    • 効果③
      Derek Nexusは、ICH M7ガイドラインに明記されているin silicoシステムの毒性評価に用いることができ、安全性試験を行わずとも原薬中の不純物の毒性・評価が行えるようになった。

導入の背景・経緯

高まってきたジェネリック医薬品開発における不純物の変異原性へのリスク管理

  • ・近年の国内製薬業界では、ICH M7ガイドラインへの対応が明示的に義務付けられていないジェネリックメーカーにおいても影響を及ぼす可能性があり、原薬・製剤中の不純物に関する変異原性のリスク評価について、先発メーカーと同等またはそれ以上の厳正さが求められる。
  • ・現在の科学水準に合わせて承認申請において対応する必要がある。そのため、過去に先発メーカーが開発した際に、変異原性のある不純物が含まれていた原薬で安全性試験を実施して問題なかったというだけでは、現在の科学水準に合致しないと危惧していた。
  • ・安全性試験に代わる原薬・製剤中の不純物の変異原性評価のため、研究者の手作業によるインタビューフォームや文献情報検索に頼っていたが、効率性や網羅性の点で不安が残っていた。

ICH M7ガイドラインに従いin silico毒性予測システムを検討

  • ・より高精度な不純物の変異原性ハザード評価が求められてきたことを背景に、原薬・製剤中に含まれる不純物について、最新の知見による科学的根拠から安全性を確実に示せる、万全な申請対策が急務となってきた。
  • ・安全性試験を都度実施するのでは、膨大な開発期間と費用が掛かってしまう。そこで、変異原性のある不純物を回避する製剤法を検討していくのに加え、「コンピュータによる毒性評価は (Q)SAR法を用いて実施すべきである」としているICH M7ガイドラインに従い、in silicoによる毒性予測システムを導入すると決めた。
  • ・ICH M7ガイドラインに従うためには、2種類の相補的な(Q)SAR予測システムとして、統計ベース予測、知識ベース予測システムの両方が必要だった。

品質・安全を第一とした医薬品を患者様に届けたい- 万全なリスク管理を企業責任として果たすため、in silico毒性予測システムの導入がコーポレートレベルの判断で決定した

  • ・ジェネリック医薬品の場合においても、安全な医薬品を提供する医薬品メーカーとして責任を持つため、変異原性のある不純物が新たに生成していないかには注意を払い、安全性の意識を高める必要があると考えた。

導入製品を選択した理由

はじめから、知識ベースのin silico毒性予測システムには、断然の導入実績があるDerek Nexusに決めていた

  • ・Derek Nexusは、長年に渡り海外だけでなく国内でも先発メーカーにおける利用実績が多いという点が最も信頼できたため、知識ベースの毒性予測システムにはDerek Nexus以外の導入は考えられなかった。ジェネリック医薬品の開発時には、先発メーカーが経てきた開発プロセスを必ず辿るため、先発メーカーで最も使用されている毒性予測システムを導入したかった。
  • ・先発メーカーが使用しているのとは異なる毒性予測システムを導入すると、先発メーカーが出したのとは異なる予測結果だった場合に、その解釈に困ることが懸念される。先発メーカーによる予測結果の確認も重要になるので、先発メーカーと同じ毒性予測システムを選定するのは必須要件だった。(統計ベース毒性予測システムも、同様の理由から使用実績の豊富な他社製品を導入した。)
  • ・Derek Nexusを導入しLhasa社製品のユーザーになる、Lhasa社とCTCLSが毎年開催するInternational Collaborative Group Meeting(ICGM)に参加できるようになるが、これは先発メーカー含め他社のin silico毒性予測システムの活用状況を知る貴重な機会だ。

Derek Nexusは、アラート(毒性に関与する部分構造)と文献情報を提示するので、不純物の変異原性のハザード評価にかなり役立つ

  • ・念のため、毒性が既知のサンプル化合物数個を用いて変異原性の予測精度を評価したところ、エンドポイントMutagenicityが正確な予測結果を出しただけでなく、研究者の知見だけでは見つけきれないアラートも検出され、同システム内に蓄積されているナレッジの量と質には申し分ないと判断した。
  • ・Derek Nexusの特長であるアラートを構造式として明示する機能は、不純物の化学構造式中にアラートが検出された場合でも原薬と同じ基本骨格の有無で安全性を考察できるため、とても有用だと考えた。
  • ・Derek Nexusで陽性と予測された場合でも、その根拠となる文献情報が辿れ、多角的に予測結果を考察したうえで変異原性のハザードについて、他の研究者に説明できるのが良い。これが統計ベースの毒性予測システムを単体で利用した場合では、陽性(+)または陰性(-)の数値の予測結果しか得られないため、既知知見に基づいた考察をするのが難しい。

導入のポイント

運用に合わせて、原薬購入と安全性評価の担当者にライセンスを配布した

  • ・原薬選定を担当する物性グループと、安全性評価を担当する生化学グループに導入し、開発品目決定時と原薬購入時のどちらにおいても、変異原性のハザード評価ができる体制にした。
  • ・Derek Nexusの操作は、いたってシンプルで覚えやすく、導入時のユーザー向けトレーニングだけでスムーズに使い始めることができた。
  • ・導入時だけでなく、バージョンアップ時にはCTCLSに依頼して、新機能に関するトレーニングを実施してもらい、知識をブラッシュアップし、一定の運用レベルを維持できるようにした。
  • ・細かい運用ルールは策定せず、先ずは開発品目が決まったときに原薬・製剤中の不純物について早期に変異原性のハザードが評価できる運用の徹底に焦点をおいた。これにより、無理のない運用開始ができた。

導入の効果

  • ジェネリック医薬品の開発だからこそ、安全性試験の代替手段としてin silicoシステムの重要度が高い。原薬・製剤に含まれる中間体や不純物全てについて、Derek Nexusを利用すれば網羅的な変異原性評価ができるようになった。原薬選定時には必ずDerek Nexusを用いるようにしており、より安全な原薬を選定し、安全な製剤を開発するうえで欠かせないシステムとなった。
沢井製薬株式会社
生物研究部 生化学グループ
グループマネージャー
田中 祥之 様

開発品目が決まった段階で先ずはDerek Nexusで毒性予測し、開発早期段階から変異原性のハザード低減に向けた検討に活用

  • ・開発品目が決まった段階で先ずDerek Nexusで予測する運用にしているため、変異原性のある不純物を含む原薬を研究開発で用いる場合には、より早期段階から製剤設計による不純物のリスク低減策の検討できるようになった。
  • ・細かい運用ルールは策定しなかったにも拘わらず、社内で取り扱う全品目について、全ての構造既知の不純物だけでなく、万全な安全性対策を取るために、原薬そのものもDerek Nexusで毒性予測するのが習慣化された。
  • ・全開発品目について、研究者一人当たり月2~3回は必ず変異原性のチェックをする必要があるので当初の想定より使用頻度が高く、Derek Nexusは業務に必須のツールとして利用が浸透した。
  • ・開発品目ごとに原薬・製剤の安全性情報をまとめているが、そこに職業暴露閾値などと共にDerek Nexusで予測した変異原性情報も追加できるようになり、社内の安全性の報告会議や担当者へレポート提供などを通じて、予測結果が共有できるようになった。
  • ・ICH M7ガイドラインに則り、Derek Nexusと他社統計ベース予測システムとの予測結果を組み合わせて、不純物の変異原性の評価が最終的に結論付けられるようになった。
  • ・Derek Nexusと他社統計ベース予測システムで、それぞれ陽性と陰性など矛盾する予測結果を出す場合も稀にあるが、その際には、Derek Nexusの予測結果に含まれるアラートや既知文献情報から考察ができるようになった。

開発品目ごとにより安全な原薬を提供可能なメーカーを検討する際に、Derek Nexusは重要な役割を果たしている

  • ・原薬を購入するメーカーの選定段階では、原薬の合成ルートや含まれる不純物の情報までは開示されないケースが多い。そこで沢井では、各メーカーが提示する原薬について、合成ルートから不純物や代謝物までを推定し、更にその構造式を全て明らかにしたうえでDerek Nexusで変異原性の有無を予測している。その予測結果は網羅性の高さから信頼できるため、原薬メーカーの選定を大いに支援するものである。
  • ・毒性予測により、変異原性が懸念される不純物が推定された場合、製剤設計で不純物を無くす(減らす)方向で進めるか、または最終製剤に残っていても類縁物質として不純物の含有量を許容範囲内で管理するかの開発戦略にDerek Nexusの予測結果が役立てられる。

今後の展開

より万全な安全性リスク管理のため、Derek Nexusはじめ様々なITシステムを活用して情報網を強化していく

  • ・最近の先発品では、審査情報に不純物の変異原性についてin silicoによる調査結果が公開されていることがある。複数の不純物のうち、in silicoで変異原性が予測されているがAmes・小核試験で陰性が確認されている不純物を特定したり、原薬由来の構造でないため注意しなければならない不純物を絞り込む際にDerek Nexusが必要になる。現在、Derek NexusのエンドポイントMutagenicityだけ使って予測しているが、他の毒性(例えば皮膚感作性など)にも使えたら良いかと思う。Derek Nexusだけで全て完結はできなくとも、Derek Nexusの知識ベースに何かしらの毒性情報がもっと増えていくとよい。
  • ・今後は職業曝露限界(OEL)算出において、Derek Nexusの活用を検討したい。現在、研究者が手作業で先発メーカーが発売した医薬品のインタビューフォームの管理項目情報をチェックしているが、Derek Nexusにも全て網羅せずとも、これらに関連する情報がもっと増えていって欲しい。
  • ・電子実験ノート(ELN)など先発メーカーが近年対応している事例は時間がたつとスタンダードになっていく。Derek Nexusに限らず先発メーカーのITシステム活用状況の最新情報を取り入れたく、そういった情報提供に期待している。

論文

医薬品医療機器レギュラトリーサイエンスVol.47、No.4 2016 268-272

導入企業様の情報

沢井製薬株式会社

本社住所
沢井製薬株式会社
〒532-0003
大阪市淀川区宮原5丁目2-30
URL
http://www.sawai.co.jp/ window open

※部署名、役職名、その他データは、取材時(2016年12月21日)当時のものです。

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